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高浜の海
 
案内板
高浜の海

 国府の人々には、筑波山のほか、もう一つ愛着をもった景観があった。高浜の海である。「常陸国風土記」には、次のようにみえる。
 そもそもこの地は、花かおる春、また木の葉の色づき散りしく秋になると、あるいは駕を命じて出向き、また舟を漕ぎ出して遊ぶ。春の浦々には花が千々に乱れ、秋には岸という岸の木の葉が色づく。春はさえずる鶯の声を野のほとりで耳にし、秋には宙に舞う鶴の姿を海辺のなぎさで目にする。農夫の若者と海人の娘は、浜辺を逐い走って群れつどい、商人と農夫は、小舟に棹さして行き交う。まして真夏の暑い朝、陽光でむっと暑い夕暮れになると、友を呼び僕を引き連れて、浜かげに並んで腰を下ろし、海上はるかにながめやる。少し波立ち夕風がしずかに吹き出すと、暑さを避けて集まった者は、晴れやらぬ心の憂さを風に払い、岡を照らしていた日影が、しだいに動いて行くにつれ、涼を求める者は、喜びの心を動かすのである。
 国府の役人たちは春秋の入江の景色を楽しみ、とくに夏の夕には涼を求めて集い遊んだのである。今は高浜の海も陸地化したが、高浜よりみた筑波山の美しさなど、風土記時代のすばらしい景観の面影は、まだ残っている。

   昭和60年3月
      石岡市教育委員会
      石岡市文化財保護審議会
( 登録No.024/02.02.23 )